見ごたえあるNHKスペシャル、松本清張、帝銀事件の謎に迫る
2022年年末の2夜連続、ドラマとNHKスペシャル「未解決事件第9弾!松本清張が挑んだ帝銀」(12月30日)、戦後最大のミステリー帝銀事件と松本清張の戦いを初めてドラマ化、12人殺害の毒物の正体、”真犯人”何者か?日本軍と秘密部隊の闇」(テレビ番組表)は、この事件に対し漠然と指摘されていた問題に鋭く踏み込んでいて見応えがありました。日常的に「政権忖度」ニュースを流している、同じ放送局か?といぶかるようなGHQ(アメリカ占領軍司令部 1945~1952)の帝銀事件への干渉に踏み込んだドキュメントです。
帝銀事件、私との”ささやか”な関係
帝銀事件とは、1948(昭和23)年、つまり敗戦間もない時期、社会が混乱している時期に東京都豊島区の帝国銀行(現・三井銀行)椎名町支店で起きた強盗殺人事件の事です。白昼、銀行閉店(当事は午後3時)直後に中年の男が厚生省技官の名刺を差し出して「近くで集団赤痢が発生しGHQが行内を消毒する前に予防薬を飲んで貰いたい」と行員らを集めて青酸化合物を飲ませ、行員ら12名を毒殺し現金と小切手を奪った強盗殺人事件です。暗い世相にさらに日本中にショックを与えたこの事件では犯人として著名な画家、平沢貞道が逮捕されます。マスコミは極悪非道な人物と報道し、裁判で死刑判決を受けます。しかし平沢は獄中で一貫して無罪を叫び続け、死刑執行がされないまま1989年(平成元年)獄死しました。私は帝銀事件のあった11年後に(1959年、昭和34年)前身が同じ帝国銀行(兜町支店)に勤務していました。戦後日本の平和と繁栄を謳歌し青春真っ盛りの時代ですが、事件のあった椎名町支店とは人事交流があったのか、○○さんが…等、同じ支店の年長の行員が帝銀事件についてひそひそ話をするのを脇で聞いたかすかな記憶があります。
(写真は松本清張氏・左、と名刺交換する私(30歳代)・右、中央は宮本顕治共産党委員長)。
NHKのドラマは流行作家の松本清張が帝銀事件の様々な証拠を入手しGHQとの関係に確信を深めてノンフィクションとして発表したいと文芸春秋社に申し入れます。しかし編集長は頑として、小説(フィクション)にするように求め、ドラマはこれに納得ゆかず苦悩する松本清張を描きます。何故、ノンフィクションではだめなのか。編集長もまた事件の背後にGHQの影を認め、彼らの暴露に突き進むと清張の身に危険が迫ることを予見し彼を守るためにフィクションで書くように強要したのです。当時から松川事件、下山事件…についてGHQの関与が疑われていました。占領を続けるために日本人の命は何とも思わないGHQが日本の警察も、検察も支配していました。果たして、清張の「小説帝銀事件」は、GHQが関与していたかどうか確信が持てないまま無力さをつぶやいて小説は閉じられます。
NHKの番組では12人もの人が殺された凶器は裁判所が断定した青酸カリではなく、ゆっくりと毒が回る青酸ニトリュームとしています。この毒薬は731部隊と密接な関係のあった登戸研究所(川崎市、現在は明治大学のミュージアム)で開発され、敗戦時に複数の人物が持ち去りました。何のために?彼らは重大な戦争犯罪人ですから逮捕された場合に秘密保持のための自殺用でしょうか。登戸研究所の果たした役割について山田昭明治大学教授(同研究所所長)は語ります。
犯人像について番組も示唆していますが、私は死刑囚の平沢ではなく731部隊憲兵Aに疑いを持ちました。彼は戦後は一貫して行方不明ですが昭和49年に死亡が確認されています。彼は、GHQにとっては危険人物であったでしょう
GHQが事件をうやむやに葬った
当時GHQは絶対的権力を持ち警察も報道機関も管理下に置いていました。その点をNHK番組は明らかにしてゆきます。初めは警察の捜査は軍関係者に及んでゆき膨大な捜査資料が残されています。このまま捜査を続ければ真犯人を捕らえられたかもしれません。しかし突然、警察の捜査の方針が転換されます。松本清張は捜査に当たった中枢人物に接近しますが、相手は頑として話そうとしません。
GHQの作成した帝銀事件捜査報告書では「軍の機密とかかわったものについての報道を禁止する」とあります。山田教授は「分岐点に帝銀事件がある」と語ります。この事件追っていいた記者は「今君のやろうとしていることから手を引いてくれ。石井部隊(731部隊)とGHQ野関係が記事になっては困る。トップシークレットだ」と干渉されました。
石井部隊の戦争犯罪を免責する代わりにアメリカは彼らに研究データを提供させました。その結果、731部隊の「悪魔の飽食」に携わった軍人、軍属は一等罪を免れ、戦後社会をぬくぬくと生きて天寿を全うしました。歴史修正主義に一役買い、日本の民主主義、平和主義を狂わせてきました。
この番組の再放送は必見です。(吉川春子記)
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