第193通常国会の暗と明
共謀罪成立と公明党の醜い姿
第193国会は安倍内閣による、国民への監視を強め、内心の自由を侵す共謀罪法の成立という歴史的な汚点を残して終わった。
参議院ではさらに、委員会採決を省略して本会議採決を行う中間報告の暴挙まで行った。理由は、同法案審議している法務委員会委員長が秋野公造・公明党参議院議員であり、公明党委員長が委員会での強行採決している場面をテレビで放映されたくない、という身勝手なもの。自分の党の醜悪さをかくすために国会の民主的ルールを踏みにじって恥じないのが公明党なのだ。
私の知る限り(現役時代)公明党は野党の時も含めて参議院法務委員長のポストを独占してきた。自民党は、派閥華やかなりし時は法務大臣ポストは主流派が必ず占めてきた。法務大臣はいざという時に警察、検察に影響力行使できる?からである。
法務大臣が取れない公明党には、法務委員長を確保する必要があった(理由は公然と囁かれていた)。公明党は今回も自民党と手を組んで共謀罪の成立に乱暴な国会運営を行ってきたのに、強行採決はしていない、という体裁を整えとの見え透いた行為である。しかし国民がこの事をよく知れば同党の謀略性は一層焼き付けられるであろう。
110年ぶりの刑法改正
通常国会の最終盤で、以下の内容で明治時代の刑法の性犯罪に関する罰条が大幅に改正された。
一、強姦罪の名称を「強制性交等罪」に変更し、被害者に男性も含
めて、性交類似行為も対象にする
二、強姦罪の法定刑の下限を懲役3年から5年に引き上げる。強姦致死
傷罪は懲役5年から6年に引き上げる。
三、強姦罪や強制わいせつ罪の親告罪規定を削除する。これによって
被害届がなくとも犯罪として捜査を開始できる。
四、父親の18歳未満の娘に対する性的暴力は暴行、脅迫がなくとも
罰することができるようになる
(準強姦の被害に会った女性の記者会見)
(「加害者」と訴えられた男性のフェイスブックより)
性暴力被害を告発する女性の勇気
今回の改正で単純強姦罪から親告罪の規定を外した結果、これまで被害届のない事をいいことにはびこった強姦罪常習犯を減少させることが期待される。今回改正の陰には被疑者(団体)の奮闘が大きな力になったと思う。
この事件もその一つであるが、TBS元記者の女性に対する準強姦罪疑惑について、検察審査会で審査中と報じられている。この件で、所轄の警察が逮捕状まで取ったのに警視庁からストップがかけられ、逮捕状が執行されなかった(「その記者は安倍総理と親しい」などと週刊誌で報道された)。
しかし、被害女性が記者会見して加害者の男性を厳しく告発した。その姿に、私は性暴力被害に会った女性たちの変化に注目した。女性が泣き寝入りする時代を終わらせ、性暴力は当然加害者が悪いのであって、「女性に隙があった」、「(強姦について)強く拒否しないから合意があった」などの言い訳をさせる余地をなくす必要がある。当事者が声を上げる、そのことが法律を変え、社会を変えるのだ。3年後の見直し規定があるので今回不十分な点は次の改正に期待したい。
13才からの父親の性暴力を告発した
今回の刑法改正で私が特に印象深かったことは、父親による幼い娘への性暴力が処罰されることになった点である。父親の幼い娘に対する性暴力がかなり多いが、公然と問題にされることは少なかった。であるから、参議院の委員会で参考人として発言した山本潤さんのカミングアウトを初めてテレビで見て、私は衝撃を受けた。
彼女は20才で実家を出て独立して、やっと父親からの暴力からのがれた。母親に告げたが助けてもらえなかった。こんなことはどの家庭でも起きていることだと思っていたのだという。
DV(家庭内暴力)と呼ぶべきか「児童虐待」というべきか、あるいは両方の要素が入った複合型というべきか。戦前の家父長制の影をここでも引きずっている。
山本さんは2014年に性犯罪厳罰化の検討がスタートしたことに合わせて、15年「性暴力と警報を考える当事者の会」を設立し法制審議会に意見書を出し、与野党議員にも働きかけた。
「性暴力の本質は、人を者として扱う事、私たちは(被害者)心を、魂を殺される」と訴えた。
当事者の運動が岩盤に穴をあけた。
尊属殺の規定を廃止したきっかけも、児童虐待
尊属殺人(刑法200条)が削除されきっかけも児童虐待であった。その女性は14才の時に父親から強姦されそ、の後も父親は妻(女性の母親)の目を盗んで娘に肉体関係を強要し続けた。母親に訴えてもその行為はやまず彼女は親戚の手を借りながら父親からの脱出を図ったが失敗し相次いで5人の子をもうけ、世間的には夫婦と異なる所のない生活を15年間送った。彼女が職場の同僚と愛し合い結婚を訳し、父親に結婚話を打ち明けたが父親は「相手をぶっ殺してやる」と怒鳴り、彼女は結婚をあきらめるが…女性は父親を殺害に及んだ…」
この殺人罪には尊属殺が適用され、情状酌量されても執行猶予がつかないどころか死刑と無期懲役しか言い渡せないという不合理についに頑迷固陋な最高裁も「この規定は憲法14条違反で無効」と判示した。(1973年4月4日)
「この判決のあった1973年は、第1回世界女性会議(1975年、メキシコシティ)の前で国連が女性への暴力撤廃宣言を行う20年も前です。女性の人権の中でも、女性への暴力撤廃について日本は夜明け前でした」(吉川春子著『翔びたて女性達――美しい性のレボリューション』2003年11月30日ケイアイメディア)
今回の刑法改正に親が18歳未満の娘への性暴力処罰規定が入ったことは画期的なことと言える。
第26回ゼミナールのテーマに
「慰安婦」問題とジェンダー平等ゼミナール、11月26日のテーマは「『慰安婦』問題と現代の性暴力」で110年ぶりの刑法改正を取り上げる予定で、講師を選考中である。
最近のコメント