陸自のPKO「日報」廃棄と、「従軍慰安婦」
(ガラス越に見る見事な六義園の銀杏の紅葉~現在は枯れ枝のみ)
PKO活動の「日報」が廃棄されたニュースは2つの重大問題を孕む。一つは「慰安婦」問題に見るように戦争関係の公文書をすべて廃棄してきた旧日本軍以来の体質、もう一つは海外の戦闘地域に自衛隊を送る事の隠ぺいである。
報道によるとアフリカの南スーダン国連平和維持部隊(PKO)に派遣されている陸上自衛隊は、首都ジュバで7月に大規模な武力衝突が発生した際の状況を記録した日報を廃棄していた(東京新聞2016年12月24日)。陸上自衛隊の文書管理規則が定める3年の保存期限に満たないうちに!
ジャーナリストの布施雄二氏が情報公開法に基づき7月7日~12日の日報を9月末に防衛省に開示請求したところ今月2日付で「すでに廃棄しており、保有していなかった」との通知を受けたことで判明した。廃棄の理由は「上官に報告した時点で使用目的を終えたから」であるという。
毎晩夜中の12時に!本会議開会のベルは鳴った
そもそも自衛隊をPKOとして派遣すること自体が憲法9条に違反する。1992年、自衛隊の海外派兵を可能とする「国連平和維持活動協力法(PKO法)」は数国会の攻防を経て、成立した。最終盤、参議院では野党が違憲の立法を阻むために5泊6日(1992年6月5日~10日迄)の徹夜の牛歩戦術で抵抗した。死闘とも呼ぶべき肉体的にも過酷な抵抗だった。
私はこの法案審議の特別委員会理事として戦った。審議の中で政府は「自衛隊を戦闘地域には送らない」、「武器の使用は刑法の正当防衛の要件に当たる場合のみしか認めない(刑法の正当防衛要件に当たる場合のみ)」との答弁を繰り返した。この答弁を安倍内閣は反故にした。
昨年、安倍内閣は集団的自衛権の従来の解釈を変え、安保法制の成立で武器の使用の要件を緩和し「駆けつけ警護も可能」とあっさり変えた。そして自衛隊を戦闘地域には送らないとの要件も変えようとしている。
戦闘地域への自衛隊派遣を可能に
1990年代は盛り上がっていた「自衛隊のPKO活動が憲法9条違反」という議論は今や影を潜め世論(メディアも)も寛大になったと、安倍内閣はタカをくくっている。
南スーダンは武力衝突もあり従来の政府見解でも自衛隊派遣はいまや、不可能な地域である。それをかくすために「日報」を廃棄したと私は疑い持つ。
国連の南スーダン制裁決議にアメリカの非難も顧みず!非常任理事国・日本はロシアなどと共に棄権し廃案にしたのお、「戦闘地」への自衛隊派遣に固執する背景があるからであろう。
重要公文書を「上官に報告した時点で使用目的を終えた」と、一部署の判断で廃棄が決められること自体大問題である。公文書の廃棄か保存かは慎重に、客観的に判断すべきである。
日本は先の侵略戦争における加害責任の証拠の公文書をほとんど廃棄している。この事を反省材料にするどころか、不都合な事実は消し去ろうとする1945年以前の日本軍の体質を政府は今も持ち続けている事に慄然とする。
(国会図書館に移管された内務省資料、地下書庫で、吉川1996年12月)
文明国の要件に欠ける国
図書館、博物館、文書館は文明国の3大施設といわれる。特に公文書保管の公文書館制度の整備が日本ではかなり遅れている。図書館は司書、博物館には学芸員という専門職がいるが、文書館に文書士の制度が日本にはない。私も国会で繰り返し専門職(文書士)の制度の設置を求めてきたが制度をつくらず、従事する職員の数も極端に少ない。アメリカのナショナルアーカイブズを視察した時、彼我の差に私は愕然とした。公文書の保管・廃棄・公開は政府の意のままにされている現状は変わらない。
「河野官房長官談話」発表時、警察資料はなかった
(警察庁が公開した旧内務省資料。コピーするには膨大なので目録を差し上げますと目録を持ってきた)
1993年宮沢内閣が「河野官房長官談話」発表時に政府の保存していた「慰安婦」関係の公文書を初めて公表した。しかし警察資料は皆無であった。「慰安婦」を「狩り集めた」のは警察であるから資料がないなどとは到底考えられない事だ。
警察資料は1996年12月に警察庁が私(当時は共産党参議院議員)に提出した物が最初である。この時、「旧内務省資料は受け継いでいない」としてきた警察庁から802点もの旧内務省警保局関係の資料が発見され1997年8月、国立公文書館に移管された。
この資料を以って1999年12月3日、私は参議院行政改革・税制等に関する特別委員会で追及した結果ようやく警察庁は「特高月報」の存在を認めた。国民弾圧機関の記録を否定し続けた政府の卑劣さに腹が立ってならない。「特高月報」問題を数十年間追及してきた先輩の吉岡吉典参議院議員から「膨大な特高資料が国立公文書館で公開された事は何と痛快ではありませんか」と評価されて私は嬉しかった(吉川春子「国会からの手紙P142・吉川春子国会レポートNo31」)。
(吉川に届けられた、内務資料一覧目録の背表紙)
歴史をきちんと受け継ぐためにも、事実の隠ぺいを許さないために公文書をきちんと保管、公表させることは非常に重大である。博物館、歴史資料館の展示内容に常に目を配ることも、地味ではあるが私たち国民の大切な仕事である。(吉川記)
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