「黄金のアデーレ 名画の帰還」と、「ジョンラーベ―南京のシンドラー」そして「母と暮らせば」
12月の六義園、部屋の窓からガラス越しに見る 南京大虐殺のユネスコ登録の正当性を主張する中国政府
最近、第2次大戦時の戦争犯罪を問う2本の映画を見た。ナチス・ドイツに略奪された美術品を取り戻す物語の英米合作の映画と、旧日本軍の南京大虐殺から中国人を救った、ナチス党員で企業人の物語。いずれも力作である。
「黄金のアデーレ 名画の帰還」
名画「黄金のアデーレ」(グスタフ・クリムト画)は、ナチスに没収された自分の持ち物なので返してほしい」と、オーストラリア政府を相手に1998年に裁判を起こした82歳の女性とその弁護士の勝訴(2006年)までの実話の映画化である。
豊かなユダヤ人実業家の家庭で恵まれて育ったマリア・アルトマンに、突然の不幸が襲ったのは、ヒトラーによるオーストリア侵略による。ユダヤ人に対する辱めと弾圧は人間否定の極みである。しかもオーストリア国民は熱狂してナチス・ドイツの軍隊を向かい入れる。
日本軍もあのようにして南京で大虐殺を行った。しかし日本国民は熱狂して「南京入場」をちょうちん行列で祝った。南京、オーストリアの2つの光景がだぶる。
偉大な画家や芸術家、フロイト博士も出入りした豪華なマリアの家のサロンもヒトラーの軍隊に占拠される。そんな中マリアは監視の目をくぐって両親を残して新婚の夫と共に、危機一髪アメリカに脱出する。
以来50年も故郷オーストリアに帰っていないし2度と再び行きたくないとの思いで生活してきた。しかし、姉の死と共に幼い時から目に焼き付いていた、美人の叔母をモデルに描かれた名画を取り戻す決心をする。この名画が「黄金のアデーレ」である。
新進気鋭の弁護士を雇い、オーストリアに乗り込む。名画の時価が1億3500万ドルと知って、お金のために代理人を引き受ける若い弁護士であるが、歴史を知るにつけてついには本気で絵画を取り戻すために頑張りだす。
オーストリア政府は、当時の国民だったユダヤ人女性=マリアの心情を理解しない。「黄金のアデーレ」(正式名称「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像」)はあくまでオーストリア政府のものであると引き渡しを拒む。
ナチスの総統・ヒトラーは若い時、画家にあこがれウイーンの名門、造形美術アカデミーを2度受験するが失敗。夢が実現しなかったことが彼のコンプレックスの1つになったといわれている。その影響か、第2次大戦中にナチス・ドイツが略奪した欧州の名画、彫刻、タペストリーは約60万点に及ぶ。そして今もその中10万点が所有者の手元に戻っていないという(「黄金のアデーレ」ジャケットより)
マリアがナチスの弾圧でうけた深い心の傷は癒えない。50年間も祖国オーストリアの地を踏まない、し、今後も絶対に行かないと誓ったマリア。しかし勇気を振り絞ってオーストリアに乗り込む。父母の無念さ、自分の過去を取り戻すために。アメリカの裁判所も利用して名画を取り戻すことに成功したマリアの勇気、強靭な意思に感動する。
「ジョンラーベ―南京のシンドラー」
12月2日(水)、町田市で市民の力で上映されたこの映画は、かつて見た映画「シンドラーのリスト」を髣髴させる。ナチスの党員シンドラーは実業家でユダヤ人を使って彼の会社は儲けをあげている。一方、シンドラーの工場で働いているユダヤ人達は強制収容所行きを免れる。ユダヤ人たちは命が助かるためにシンドラーの工場の従業員のリストにることを熱望する。
1937年12月、日中戦争の最中、中国の首都南京に日本軍が迫る。南京在住の欧米人たちが南京市内に安全地帯を作り無辜の市民を守ろうと立ち上がる。国際安全区委員会委員長に選ばれたのは、南京のシーメンスの支社の責任者・ナチスの党員であるラーベである。
ドイツとの同盟国・日本はラーベのいる南京に侵攻して残虐の限りを尽くす。空襲で南京を破壊するだけでなく、女性と見れば強姦し、女性を差し出せと公然と要求する。中国人捕虜を銃で何十人もそれ以上も平気で殺害する。日本軍の残虐行為をのがれて中国人が20万人も安全地帯に逃げ込む。
安全地帯にも空襲を行う日本軍、しかしナチスのカギ十字旗をいっぱいに建物の屋根に掲げることで日本軍の空襲は止む。しかし日本軍の嫌がらせは尽きない。やがて二十万人を養う食料も尽きかけた時に、マスコミ記者多数とともにヨーロッパからの調査団が南京に到着して日本軍の嫌がらせも止む。ラーベ達は二十万人の命を守り切った。
日本映画と、ドイツ、英米の映画
この映画は、ジョン・ラーベの書き残した日記の映画化で、新人・フローリアン・ガレンバルガー監督の作品である。2009年公開であるが、日本で普通の映画館では一般上映されていない。日本の上映に当たって監督がスクリーンの中で冒頭あいさつを述べている。「この映画は日本を批判することを意図したものではない。しかし日本の皆さんが不愉快な思いをしたのであればお詫びする」と。ドイツ人監督は日本軍の戦争犯罪を追及する一方で、ナチスの責任についても鋭い矢を放っている。
2015年、中国の申請で南京大虐殺がユネスコの歴史遺産に登録されたことで日本政府は激怒し、分担金支払いの中止をちらつかせている。当時南京事件は日本人が知らされないうちに連合国側の国々では特派員の報道で公知の事実で国際的に大問題になった。いまなお歴史の事実から目をそむけ加害責任を認識しない日本政府は恥を知るべきである。
最近山田洋次監督の映画「母と暮らせば」が話題をさらっている。戦争の悲惨さと幸せを国民から奪い去る残酷さを如何なく描いている。
こうした日本映画がもう一歩、原爆投下のアメリカの犯罪性を、背景的にだけではなくまた文学的表現にとどまらずに、厳しく追及するためには何が必要か。
まず、日本が太平洋戦争で行った略奪、捕虜虐待、女性強姦、無辜の市民の虐殺の事実を歴史教科書に載せ、歴史博物館で展示し、国民自身が日本の戦争加害責任を認識する事、その結果として、加害責任を問う映画が公然と監督が制作できる環境ができる。米国の犯罪を追及する前に「自分の瞼の上の針を取り除く」、そのような社会のバックグラウンドの形成を待つほかない、のかも…
(写真は「黄金のアデーレ」の表紙絵の「ビッグイッシュ―」日本語版)
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