私が、文京区から転入を拒否された理由
(秋まで咲くマリーゴールド・春日部六軒町 写真右・台風19号近しの六義園・文京区)
引っ越して区役所に転入手続きをしに行ったが拒否されたら!誰しも途方に暮れるのではないだろうか。日本国憲法には「居住・移転の自由」が保障されているというのに。
私は参議院議員時代に住んでいた東京都文京区のマンションが建替えの数年前から埼玉県春日部市に引っ越していた。今年6月に建替えが終わり夫はすぐ住民票を新住所に移した。私は中足骨の骨折で春日部市の病院にかかり、(入院は断られたので)老健施設に入所、その時点で未だリハビリに通っていた。マンションは完成とともに居住者が一斉に引っ越すので期限が切られているので荷物は移転した。その後かかりつけの病院の医者の「骨折の完治宣言」を待って10月初旬に春日部市から転出することにした。
文京区役所の転入手続きは短時間で完了するものと思っていたが、思いがけずクレームがついた。
「夫と妻、2人が世帯主のままでは同じ住所への住民登録は認められない。世帯主はどちらか一人にしてほしい」という。しかし、私たちは2002年から2人とも世帯主である。しかもこれを認めたのは他ならぬ文京区役所である。
(私が世帯主になった経緯は、著書『飛び立て女性達』P224~に書いた)
第1日目、窓口女性との“不毛な”やり取り
区役所の窓口女性(以下「窓口」と略)
夫婦が同一の住所に住むならば世帯主は一人が原則だ。夫婦は扶養義務を負っている。妻も世帯主のままだと住民登録は受け付けられない。どうしても2人が世帯主のままで住民登録をしたいというなら、「夫も妻も自立した生活を送っている」との証明が必要だ。夫々、所得証明を提出してほしい。
吉川
転入するのになぜ所得証明書がいるのか。そもそも、春日部に引っ越す数年前に私は世帯主になった。その時は文京区は認めておいて、今度は認めないのはどういうわけか。所得証明書を見て所得が少ない人は世帯主として認めないと言う事か
窓口
そういうことだ
吉川
それは所得による差別ではないか。法令の根拠を示せ。
窓口
夫婦なのだから同一世帯になることは当然ではないか。それによって何か不都合があるのか。あなたが非世帯主になりたくないなら夫を非世帯主にすればいいではないか
吉川
本人の了解もなく私の一存で夫を非世帯主にできると思うのか。あなたと話しても無理だ。上司と代わってほしい。
(窓口女性は奥へ引っ込みしばらくして分厚い六法全書を持ってきて「根拠は民法752条だ」という)
吉川
民法の規定からいきなり「住民登録に際して、夫婦は同一世帯になれ、ならないなら所得証明を出せ」等と言う事にはならない。条例なり規則なりがあるはずだ。それを示してほしい。
窓口
(しばらく待たされた後、窓口女性は「東京都市町村戸籍住民基本台帳事務協議会」“ぎょうせい”から刊行している分厚い「事務手続き」の書を示した。同書P47に曰く
「ウ 同居している夫婦の世帯認定 同一の住所地で生活している夫婦については、民法第752条により夫婦間には扶養義務があることから、一般的には同一世帯と考えるが夫婦であっても、生計を別にしているという実態があれば世帯を分離することも可能である」
この時点で1時間半近くも窓口女性とやり取りし、上司たる人物は何度要請しても顔を出さす、夕方4時半を回っており時間切れだ。件の女性は所得証明でなくとも年金支払いのコピーでもいいから持ってきてほしいと収入証明提出に固執する。私は転入手続きを拒否されたまま、この日は引き揚げた。
第2日目、夫と共に文京区役所へ
(私はすっかり忘れていたが、夫も春日部に転居した時、一足先に春日部市民になっていた私の住所への転入を断られたのだ。やはり窓口担当ではらちが明かず、すぐに上司の係長の女性が事情を聴いた。彼女は県の見解や近隣自治体の例を調べるので2,3日ほしいといった。越谷市や、草加市では後日無理に同一世帯になることは求めていない事を知り、一筆書いてほしいという。1日で転入手続きは終わらなかったが、長々と窓口で押し問答をしなくてもよかった、経験を持つ。この経緯は「『慰安婦』問題とジェンダー平等ゼミナール・ブログ」に書いた。2012年7月4日「夫が春日部市への転入を断られた理由―ジェンダー平等に遠い、国の制度」)
私たちは前日の窓口女性に「あなたの上司(課長か係長)と話したい」といった。夫がいたせいか?!はじめから上司が対応した。夫が春日部市への転入時の自分の経験を話した。「生計を別にしているという実態」は自治体が独自に判断できることではあるが、窓口女性が徹底的に頑張ったことを見ると、所得証明を求めることが日常的に行われているのであろう。
ともかく窓口女性の上司に春日部の経験を説明し、所得証明ではなく、生計を別にしているとの一札(申出書)を書いて(ここは私が譲歩した)、転入手続きを完了した。この日は朝1番で行き、住民票発行は11時過ぎであった。
戦前の家族制度を引きずっている民法752条と、同居夫婦の世帯分離
第2次大戦後、民法の家族法と相続法は大きく書き改められて劇的に代わった。しかし、日本国憲法制定に伴う国会の民法改正に関する議事録を読むと、家父長制維持の勢力から新しい民法に移行することに強い抵抗があったことが分かる。(その中心人物が安倍総理の祖父・岸信介氏であった)
その結果新しい民法にも家族制度を残す規定がいたるところに残されている。婚姻年齢、夫婦同姓の強制、女性の再婚禁止期間、相続財産(非嫡出子の相続差別はごく最近改められた)等々。私は現職国会議員のとき民法改正のために超党派野党女性議員と一緒に努力したが未だ実現していない。
私は今回の転入を通じて民法752条について二点を感じた。
その一は「夫婦は一体」とする戦前の家族制度を引きずっている事、
これは、住民基本台帳法第6条の「市町村長は、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して住民基本台帳を作成しなければならない」との規定にも反する。
その二は、収入証明を提出させて収入の極端に低い人を世帯主と認定しない。これは生活保護を簡単に受けさせず、扶養義務を家族(配偶者)に負わせようとする魂胆が見える。憲法25条の「全て国民に健康で文化的な最低限度の生活を保障する」国の責務との整合性をどう考えているのか。
<資料>同居夫婦の世帯分離に関する取扱いについて総務省見解 ○民法752条により夫婦間には協力扶助義務がある事から。同一住所地の夫婦など一般的には同一世帯として取り扱うべきであるが、現在の多様な就労形態により、夫婦間であっても生計を別にしている実態について市町村が居住の実態や収入状況を審査した上で認める場合、世帯を分離することも可能である ○その際、収入水準等の規定はない ○どのように「確認、審査」を行うかは、各市町村長の判断になる。総務省としてその実態は把握していない(アンダーラインは吉川) 総務省は従来、民法752条の夫婦間の協力扶助義務が定められている事を根拠に同一住所地の夫婦は同一世帯として取り扱う事としていたが、「生計を別にしている実態があれば世帯分離も可能である」と変更した(平成12年3月24日の神奈川県企画部市町村課宛の電話回答)。しかしこの変更においても「原則は同一世帯であり、別世帯はあくまで例外的取り扱いである」「生計を別にしている実態を確認審査するため、源泉徴収票、課税証明書等疎明資料の提示を求めることは差支えない」としている。(「新版・地方自治問題解決事例集第1巻 行政編」(平成20.6.10 ぎょうせい)P217~ |
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初めまして、記事を興味深く拝見しました。今回、コロナ給付金の騒動で世帯分離に関心を持ったのですが、検索した際こちらのブログを見て驚きました。
練馬区でも、ホームページの必要書類欄には本人確認書類と国民健康保険証しか書かれていなかったのに、窓口に赴くと「民法上夫婦は助け合うことになっているから、夫婦が世帯分離する場合は、夫・妻双方の署名がいる」と用紙を渡されました(それなら最初からサイトにアップしてくれていればよかったのに!)。憲法改正案の家族条項の件から見ても、とことん家父長制を維持したいようですね。
それどころか、兵庫県西宮市では「同居している限り、夫婦で世帯を別々にすることはできません。」と銘打っています。
https://www.nishi.or.jp/shitsumon/kurashi/koseki/kosekinotodokede/fufusetaibunri.html
DV被害者でなくとも、夫がギャンブル依存症でお金を渡したら使われてしまう家庭等は、給付金どうするんでしょうね…世帯分離しかないのに。
投稿: ナナシ | 2020年6月 8日 (月) 12時16分
もう10年も一緒に住んでいない夫と世帯分離をしたいと役所に行きましたがお断りされました。
離婚前提、生計も別だと伝えたのですが。。。
世帯が同じために住民税などに影響が出ているのにです。。。
どうしたら良かったのでしょうか。。。
投稿: 悲しい | 2022年4月21日 (木) 11時18分
埼玉県ではほぼすべての市町村で、共働きの同居の夫婦の世帯分離は断られます。板橋区では断固として断られました。他の23区ではすんなり認めているところもあるのに、市町村で対応がわかれることに疑問を持ちます。どうしてそれぞれが世帯主になることに問題があるのかわかりません。
投稿: 匿名希望 | 2022年9月27日 (火) 16時53分