英国BBCのドキュメンタリー番組が暴いた、ジャニー喜多川の性暴力
ジャニー事務所は、日本の芸能界で大きな影響力を持ちますが創設者のジャニー喜多川氏(2019年に死去)が所属タレントの10代の少年たちに性的虐待を繰り返し行っていた事実が明らかになり大きく報道されています。しかしこれ迄はマスコミは事実をほとんど報道しませんでした。私自身、今回の『週刊文春』の報道に接する迄この問題を全く知りませんでした。
ジャニー事務所はジャニー喜多川氏が創設したスターになるための登竜門であり、多くの男性タレントを世に送り、彼らはTVや雑誌、映画、コマーシャル等で活躍しています。ジャニー喜多川氏は芸能界に於いて強大な権力を誇ってきました。彼が亡くなった際、安倍晋三総理大臣も弔意を表したほどです。
5月17日、NHKの看板番組「クロースアップ現代」で、このジャニー喜多川氏の少年(子ども)達に対する性暴力の実態が報映されました。番組はあらかじめ「性描写があります」と断って複数の被害者による生々しい性虐待の内容が語られました。番組は「喜多川氏の性加害を知りながらNHKはじめ主要メディアは報じなかった」と、自社の反省とメディア他社の名前を挙げて批判しました。女性キャスターは緊張の面持ちでコメントし、最後に絞り出すような声で「HHKは今後もこの問題にキチンと向き合います」と決意を述べました。私はその言葉に期待します。
去る3月、イギリスのBBC放送がドキュメンタリー番組でジャニー喜多川氏の性暴力を報道しました。番組名は「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」(原題:Predaror The Secret Scandal of J=POP)。これが日本での沈黙を破る嚆矢(こうし=初めての矢)となったのです。この放送を契機にジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏(26歳)が自分の被害を公表しました。
4月12日カウアン・オカモト氏は日本外国特派員協会で会見を行いました。「自分はジャニーズに在籍した2012年から16年までの間(15歳から4年間)に性被害を15回から20回受けた」と証言しています(『週刊文春』2023.5.4号)。「自分と同じような被害を少なくとも3人の仲間が受けたのを知っているし虐待を受けた少年は100人ほどにのぼる」と述べました。彼は日系ブラジル人で現在はシンガーソングライターとして活躍しています(=BBC)。写真:ジャニー喜多川の性暴力のドキュメンタリー、英BBCより
2005年性加害を裁判所が認定、しかしマスコミは黙殺
ジャニー喜多川氏の性暴力は単なる“うわさ”ではなく、20年も前に確定した事実だったのです。
『週刊文春』はすでに1999年にジャニ―喜多川氏の性暴力を報道しました。この報道に対してジャニーズ事務所は名誉棄損で裁判に訴えます。一審の東京地裁は『週刊文春』側が敗訴します。しかし2003年7月東京高裁判決は「記事はその重要な部分において真実である」と事実を認定しています。ジャニーズ側は上告しますが最高裁は2004年に上告を棄却。ジャニーズ氏の性加害について東京高裁の判決が確定します。
この様に最高裁まで行ってジャニーズ北川氏が性暴力の加害者であると認定された後も、NHKはじめ主要なメディアは黙殺しました。なぜか?芸能界に多数のタレントを輩出し絶大な権力と金力を誇る実力者に対して日本のジャーナリズムは(『週刊文春』以外)ひれ伏したのです。ジャニー喜多川氏の性暴力を報道して報復としてジャニーズ事務所所属のタレントのTV出演が拒否され、あるいは顔写真の雑誌の表紙での使用を断られると、売り上げが落ちることを心配したからです。そして、その後もジャニー喜多川氏の性暴力は続き、被害者が出続けたのです。
大きなメディアは報ぜず、政府も国会も動かず、警察も誰も問題視せず、被害にあった少年たちは苦しみ続けていた…日本はそんな国なのです。
「イギリスの例で、未成年者への性加害が死後に明らかになった英国のテレビ司会者、ジミー・サビルは彼の罪が一度告発されると大規模な捜査が実施され、その悪意ある行為は清算された」(英紙「フィナンシャル・タイムズ」の日本特派員)。ジャニー喜多川の行為は強制わいせつ罪を構成するのではないか。起訴はおろか捜査もしないとは日本の警察はイギリスにかなり遅れをとっている。
こうした世論を背景に、この期に及んでなおジャニーズ事務所の藤島社長は「当事者のジャニー喜多川に確認できない以上告発内容について「『事実』と認める、認めないと言い切ることは容易ではない」などとして認めようとしていません。ちなみに藤島社長はジャニー喜多川氏の姪で1999年当時は取締役に就任しており、件の裁判も熟知している人物です。
性暴力をタブーにしないアメリカジャーナリズム
私は2016年にアメリカ映画「スポットライト」を見てアメリカのジャーナリズムは健全であると実感しました。
2002年2月アメリカ東部の新聞「ボストン・グローブ」紙が、地元ボストンの数十人もの牧師が児童への性暴力を行っている事実をカトリック教会ぐるみで隠ぺいしている事を掴み、入念な調査の末に大スキャンダル事件として報道しました。
カトリックでは「神父は妻帯を禁じられ禁欲主義で抑圧され過ぎた性欲が暴走したのでは」と事件の背景に迫っています。2006年ついにローマ教皇が責任を取って辞任します。別の調査では、2002年から全世界で報じられた神父によるレイプが4000件に及び800人が神父の資格をはく奪され2600人が職務永久停止処分を受けました。(以上は「慰安婦問題とジェンダー平等ゼミナールブログ」吉川春子・記 2016.4.21)
カトリック教会と総元締めのローマ法王庁の権威・権力はキリスト教国でない日本では想像できないほど強力です。ローマカトリック教会という強力な権力にめげず事実を報道した「ボストン・グローブ」誌の記者たちの勇気に感動しました。
それとは別の意味ですが日本社会において芸能界を支配していて、メディアに影響力を持っているのがジャニーズ事務所です。この事務所ぐるみの性暴力の隠蔽を許していいのでしょうか。曖昧なまま幕引きすることはゆるされません。日本のジャーナリズムが試されています。私達日本の国民の知性、正義、人権感覚が試されているのではないか、と思います。写真:ジャニーズ事件を報道する『週刊文春」3023.5.4号
フラワーデモ、日本人「慰安婦」、そしてジャニーズ
一人も名乗り出ず、社会も権力をも批判せずに歴史の彼方に姿を消した日本人「慰安婦」の姿が、ジャニー喜多川氏の性暴力に声を上げられなかった少年たちの姿とダブります。苦しみ、孤独、周囲の無理解…
しかし、その過去を教訓にして女性に対する性暴力を許さないと声を上げ始めたフラワーデモが今日あります。歩みはのろくとも前進している性暴力被害者の告発運動です。
日本でジャニーズ問題がどういう決着を示すのか。ジャニーズ事務所自身の甘い調査や救済措置にまかせるだけでいいのでしょうか。
困難を乗り越えて芸能界で有名人として活躍している人もいるかもしれません。或いはこの性暴力で人生を狂わされた人もいるかもしれません。そういう人たちにも光が届くような、対策が求められているのです。あいまいなまま終わらせないために必要なのは世論の力です。問われているのは私たち一人一人の行動かもしれません。(了)
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